ドッグフードの原材料:山伏茸(yamabushi mushroom)
山伏茸(学名:Hericium erinaceus)とはサンゴハリタケ科に属する食用・薬用きのこで、特徴的な白いふさふさとした外観を持ちます。成長すると、長い針状の突起が垂れ下がるようになり、その姿が修験者(山伏)の衣装に似ていることから「山伏茸」と名付けられました。
山伏茸はブナやナラなどの広葉樹の倒木や枯れ木に発生する腐生菌で、秋から冬にかけて自生しますが、人工栽培も行われています。
山伏茸が原材料のドッグフード例
山伏茸の高い健康効果からドッグフードや犬用おやつ、犬用サプリメントの原材料に使用されています。
原材料欄には山伏茸のほかに、山伏茸エキス、山伏茸粉末、乾燥山伏茸などと表記されます。
- 和漢みらいのキャットフード
- みんなのごはん 全犬種 パピー用
- POCHI DHAローヤル
- DOZO DOGFOOD
- withpety 毎日美食
- 太陽食品 バイタルワン 犬猫用
など
山伏茸の栄養素と犬への健康効果
山伏茸は多くの健康効果を持つ
山伏茸はβグルカンやヘリセノン、エリナシン、エルゴチオネインを豊富に含み、脳機能の改善や免疫の強化、抗酸化作用が期待されています。
下記は山伏茸の犬への健康効果です。( )内はその健康効果で主要となる栄養素や成分です。
- 脳機能向上・認知症予防(ヘリノセンやエリナシン)
- 神経成長因子の合成促進作用(ヘリノセンやエリナシン)
- 免疫力の向上(βグルカン)
- 抗がん作用(βグルカン)
- 血糖値の調整(βグルカン)
- 抗酸化作用(エルゴチオネイン)
- 腸内環境の改善(食物繊維)
山伏茸の摂取による腸内環境の改善
山伏茸は食物繊維を豊富に含むことから、腸内の善玉菌を増やし、腸内環境の改善が期待されています。また山伏茸に含まれるβグルカンは腸の免疫機能を高め、便秘や下痢の予防に貢献します。
アニコムホールディングス株式会社が公表した「腸内環境×健康」に関する研究によると、「犬の腸内環境の多様性が高いほど健康度が高い」ことが分かりました。
引用画像:犬の腸内環境が多様なほど、健康度が高いことが明らかに!|アニコムのデータをもとに作成
腸内環境の改善は後天的な要素でも変化することから、ドッグフードや犬用おやつ、犬用サプリメント、手作りごはんなどで山伏茸を取り入れて腸内環境を整えることは健康につながると言えます。
山伏茸の摂取による認知障害の改善
この研究では、軽度認知障害(MCI)と診断された50~80歳の日本人を対象に、山伏茸の経口摂取が認知機能に及ぼす影響を検討しました。被験者を山伏茸群とプラセボ群に無作為に分け、山伏茸群は16週間にわたり1日3回計1000mgを摂取しました。
試験の結果、山伏茸群はプラセボ群と比較して認知機能スコアが有意に向上しました。臨床検査では副作用は認められず、安全性が確認されました。ただし、摂取を中止すると4週間後にはスコアが大幅に減少しました。
この結果は、継続的な摂取が必要であることも示されましたが、山伏茸が軽度認知障害の改善に有効な可能性があることが分かりました。
ヘリセノン、エリナシン:脳機能の向上
山伏茸に含まれるヘリセノン(Hericenone)とエリナシン(Erinacine)は、脳の神経細胞の成長や修復をする重要なタンパク質「神経成長因子(NGF)」の産生を促進する作用を持ち、脳機能の向上に寄与するとされています。
出生直後のラットにエリナシンAを毎日経口投与(体重1kg当たり8mg)し、5週目に脳の各部位のNGF量を比較したところ、嗅球と大脳皮質ではコントロールと差が無かったが、青斑と海馬中のNGF量は大きく上昇していた。これはNGF合成促進物質が動物実験でも効果を示した世界で初めての報告であった。
また、ラットを用いた別の動物実験[ヘリセノンC(1)とエリナシンA(7)を使用]では、きのこ毒であるイボテン酸を注入することによるアルツハイマー型認知症モデルラットや人工的に血管を詰まらせる脳血管性認知症モデルラットに対して、これら化合物は明らかに記憶の保持、学習能力の向上に効果を示した。
ラットによる実験では、エリナシンAを毎日経口投与し、5週目に脳内の神経成長因子の量を測定した結果、嗅球と大脳皮質では変化があらわれなかったものの、青斑(覚醒・ストレス応答・感情制御・痛みの抑制に関与する神経核)と海馬(脳の記憶や学習を司る部位)では神経成長因子量が大幅に増加していたことが分かりました。
特に加齢による認知機能の低下やストレス耐性の向上、神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病など)の予防・改善に役立つ可能性が期待されています。
βグルカン:免疫力の向上
βグルカンとは、きのこ類や酵母、穀物の細胞壁に含まれる多糖類です。
摂取すると腸管免疫の要であるパイエル板を通じてマクロファージやナチュラルキラー(NK)細胞を活性化し、病原体への防御力を向上させます。
また、βグルカンはインターロイキンやサイトカインの分泌を促進し、抗ウイルス・抗菌作用を強化すると考えられています。これにより風邪や感染症の予防、アレルギーの軽減、がん細胞の抑制に効果がある可能性があります。
特に山伏茸や霊芝などのきのこ由来のβグルカンは免疫調節作用が強いとされ、健康維持・向上を目的とした犬用おやつや犬用サプリメントに広く利用されています。
エルゴチオネイン:抗酸化・抗炎症作用
山伏茸の主要成分の一つであるエルゴチオネインはアミノ酸の一種で、強力な抗酸化作用を持ちます。
抗酸化作用とは、体内の活性酸素を除去して細胞の酸化ストレスを軽減する働きです。
特にミトコンドリアや細胞内に長期間蓄積されやすい特性を持ち、神経細胞の保護や認知機能の維持に寄与し、アルツハイマー病などの神経変性疾患の予防が期待されています。また、炎症抑制や免疫力向上にも関与し、生活習慣病のリスクを低減する可能性があります。
山伏茸の与え方と注意点
トッピングや手作りごはん
山伏茸が原材料のドッグフード(ドライ・総合栄養食)はほとんどありませんが、ウェットフードや犬用サプリメントの原材料ではよく見かけます。
そのため、普段のドッグフードにウェットフードやサプリメントをトッピングしたり、おやつとして与えたり、手作りごはんに取り入れてみましょう。
山伏茸は流通量が少なく、鮮度が重要であるため、産地に遠い地域ではほとんど見かけないでしょう。山伏茸を手作りごはんに取り入れて犬に与えたい場合は、オンラインショップや産地直送の通販サイトを利用するのがおすすめです。
散歩で出合う?
山伏茸は広葉樹の枯れ木や倒木に生えるきのこであるため、公園や住宅街、舗装された道など一般的な犬の散歩コースではほとんど見かけることはありません。
ただし、犬と一緒にキャンプや登山などで森林に入る場合には、まれに出合うかもしれません。山伏茸は食用きのこですが、犬は生のきのこを食べると消化不良や中毒のリスクがあるため、興味を示したらすぐに離れさせるのが安全です。
まとめ
- 山伏茸は脳機能や免疫力の向上、抗酸化作用が期待される
- 山伏茸の高い健康効果から、多くの犬用製品に配合される
- 普段のドッグフードにトッピングや手作りごはんに取り入れる