「最近、犬がやたらと水を飲むようになった」「トイレの回数が増えた」と心配になる飼い主さんは少なくありません。季節や運動量の変化である場合もありますが、実はその裏に「副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)」という内分泌系の病気が隠れていることがあります。
この病気は中高齢の犬でよく見られる疾患で、放置すると体全体に悪影響を及ぼし、生活の質を大きく下げてしまいます。
そこで今回は、犬の副腎皮質機能亢進症の特徴や原因、症状、日常生活での対策を解説します。
犬の内分泌系の病気一覧
内分泌系の疾患は下記が挙げられます。
- 甲状腺機能亢進症
- 甲状腺機能低下症
- 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
- 副腎皮質機能低下症(アジソン病)
- 糖尿病
ちなみに、①甲状腺機能亢進症は猫(とくに高齢猫)では非常に多い内分泌系疾患ですが、犬ではほとんど見られません。
犬の副腎皮質機能亢進症とは
副腎は腎臓のそばに2つ存在
副腎とは腎臓のすぐそばにある小さな臓器で、左右に2つあります。名前に「腎」とついていますが、腎臓とは別の働きを持ち、生命維持に欠かせないホルモンの分泌をする重要な器官です。
副腎は「皮質」と「髄質」に分かれ、それぞれ異なるホルモンを分泌しています。
- 副腎皮質:コルチゾール、アルドステロン、アンドロゲン
- 副腎髄質:アドレナリン、ノルアドレナリン
コルチゾールが過剰に分泌することで起こる
副腎皮質機能亢進症とは、副腎皮質から分泌されるコルチゾールが過剰に分泌されることで起こる病気で、クッシング症候群 とも呼ばれます。
コルチゾールはタンパク質や脂肪の代謝、抗炎症作用、血圧の維持などさまざまな働きを持ちますが、多岐にわたる働きを持つため、過剰に分泌されると全身にさまざまな異常を引き起こします。
犬では比較的よく見られる内分泌疾患で、とくに中高齢の犬に発症しやすいのが特徴です。
犬の副腎皮質機能亢進症の原因
副腎からコルチゾールが過剰に分泌されてしまうのは3つの原因があります。
①脳の下垂体に腫瘍ができる
犬の副腎皮質機能亢進症で最も多い原因が、脳の下垂体の腫瘍です。
脳の下垂体に腫瘍(良性のことが多い)ができることで、副腎を刺激するホルモンACTHが過剰に分泌されます。その結果、副腎は絶えず刺激され続け、コルチゾールを必要以上に分泌してしまいます。
進行は比較的ゆるやかで、治療には副腎のホルモン産生を抑える薬が用いられるのが一般的です。
②副腎に腫瘍ができる
副腎そのものに腫瘍ができることにより、コルチゾールが過剰に分泌されます。
片側の副腎が大きく腫れるのが特徴で、腫瘍が良性であれば手術によって完治が期待できますが、悪性で転移している場合は予後が厳しくなることもあります。
③長期間のステロイド薬の投与
関節炎や皮膚炎、免疫疾患などの治療で長期間にわたってステロイド薬を投与することで体内のコルチゾール濃度が高い状態となり、副腎皮質機能亢進症と同じような症状を示すようになります。つまり病気そのものではなく、治療に伴う副作用といえるケースです。
この場合はステロイド薬の使用を中止または減量することが必要ですが、急にやめると体が対応できず危険なため、獣医師の指導のもと段階的に調整することが求められます。
犬の副腎皮質機能亢進症の症状
副腎皮質機能亢進症では、全身にさまざまな症状が現れます。
- 水をよく飲む
- 尿の量が多い
- 食欲が異常に増す
- お腹が膨らんでくる(腹部膨満)
- 左右対称性の脱毛
- 皮膚が薄くなる、傷の治りが遅い
- 筋力低下、散歩を嫌がる
- 感染症にかかりやすくなる(膀胱炎、皮膚炎など)
とくに「水をよく飲む」「おしっこが多い」「お腹が出てきた」といった変化は飼い主が気づきやすいポイントです。こうした症状は季節の変化や年齢と思われがちですが、実は副腎皮質機能亢進症の可能性があるため、早めに動物病院を受診することが大切です。
日常生活での対策
副腎皮質機能亢進症は完治が難しいことが多いため、「早期発見」と「生活の質を維持する管理」が対策となります。日常生活で飼い主ができる対策を心がけましょう。
- 日々の飲水量や排尿量をチェックする(急に増えていないか)
- 「よく食べるのに痩せる/太る」「お腹が膨らむ」などの変化
- 年齢が7歳を超えたら定期健診でホルモンの異常を見つける
- 皮膚が弱く感染しやすいため、生活環境を清潔に保つ
- 散歩や軽い運動を続け、筋力低下を防ぐ
- 生活リズムを安定させ、精神的負担を減らす
まとめ
- 犬の副腎皮質機能亢進症は中高齢犬に多い内分泌疾患の一つ
- 下垂体の腫瘍、副腎の腫瘍、長期のステロイド使用が原因
- 主な症状は、水をよく飲む、多尿、食欲増加、腹部膨満
- 日常の飲水量や体重管理、定期健診が予防と管理の鍵