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こうした出来事は単なるマナー違反にとどまらず、法律や条例に触れる可能性があります。飼い主として知っておくべき責任を理解し、愛犬と安心して暮らすための参考にしましょう。
飼い主が知っておきたい法律
動物愛護管理法
正式名称を「動物の愛護及び管理に関する法律」といい、下記を基本原則としています。
動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。
何人も、動物を取り扱う場合には、その飼養又は保管の目的の達成に支障を及ぼさない範囲で、適切な給餌及び給水、必要な健康の管理並びにその動物の種類、習性等を考慮した飼養又は保管を行うための環境の確保を行わなければならない。
引用元:動物愛護管理法|環境省
1973年(昭和48年)に議員立法により制定され、動物を取り巻く社会状況や飼養環境、国民の意識の変化に対応するために、制定以来、1999年、2005年、2012年、2019年と定期的に改正されています。
民法
民法とは日本の私法の基本法であり、個人間の権利・義務関係を規律する法律です。物の所有権や契約に関するルール、家族関係や相続に至るまで広く規定しており、国民生活の根幹を支える法典です。
軽犯罪法
軽犯罪法とは社会秩序や公共の安寧を乱す軽微な行為を処罰する法律です。重大な犯罪に至らないものの、放置すれば治安や生活環境を悪化させる行為を対象とし、違反した場合は拘留または科料に処されます。
各自治体の条例
条例とは地方公共団体が地域の実情に即して制定する法規で、国の法律と異なり、その地域に居住する人々に対して効力を持ちます。条例違反は刑罰ではなく過料として処理される場合が多いものの、地域住民の生活に直結した実効性の高い規制です。
犬のトラブル①犬が他の犬を噛みついた
ここからは、よく見られる犬のトラブルの事例において、どんな違反や罰則になるのかを解説します。
犬が他の犬に噛みつきケガをさせてしまった。
犬の散歩中やドッグランなど他の犬がいる状況では、こうした事例は珍しくありません。
犬にとっては本能的な行動であっても、飼い主の管理不足として厳しく問われる場面です。相手の犬の治療費だけでなく、通院に伴う交通費や慰謝料を請求されるケースもあります。
該当する法律や条例
- 動物愛護管理法
飼い主は犬に対して、周囲に危害を加えないように適正に管理する義務があります。とくにノーリードだった場合は重い責任が問われる可能性があります。 - 民法
他の犬をケガさせた場合、飼い主は不法行為責任により損害賠償を負います。 - 自治体条例
多くの自治体で「犬の放し飼い禁止」が明記されています。違反すれば指導や過料(罰金)につながることもあります。
犬のトラブル②子供が散歩中に他の犬をケガさせた
子供に犬の散歩を任せたときに、制御できずに他の犬をケガさせてしまった。
未成年者は賠償能力がないため、監督義務者(通常は親)が責任を負うのが原則です。犬の散歩は力や判断力が必要であり、子供に任せる場合は大人が近くで見守るなどの配慮が不可欠です。
該当する法律や条例
- 動物愛護管理法
適正管理を怠ったと見なされ、親に指導が及ぶ可能性があります。 - 民法
未成年者の行為によって発生した損害については、監督義務者(通常は親)が責任を負う。
犬のトラブル③公園でブラッシングをして毛を放置
公園で犬をブラッシングし、その場に毛を放置したまま帰宅した。
公園などの公共の場でブラッシングをし、放置する事例です。「少しだから大丈夫」と思っても、公共の場所ではマナー違反にとどまらず、法律上の問題に発展する可能性があります。
とくに春や秋の換毛期には大量の被毛になりますが、抜け毛は風で舞い、周囲の利用者にとっては不快感やアレルギーの原因となります。
該当する法律や条例
- 動物愛護管理法
公共の場で他人に迷惑をかけないよう管理するのも飼い主の責務です。 - 軽犯罪法
抜け毛の放置は「汚物をみだりに捨てる行為」と解釈されることがあります。 - 公園利用条例
自治体によっては「犬のブラッシング禁止」「犬の毛やゴミの放置禁止」を明記している場合があります。
犬のトラブル④犬のフンを処理せず放置
散歩中に犬が排泄をしたが、回収せずにそのまま放置した。
犬のトラブルの中でも多い苦情が「フンの放置」です。
散歩中に排泄して回収せずにそのまま帰宅する行為は、周囲の生活環境を悪化させ、衛生面のリスクも高めます。このような悪質な放置が何度も続けば近隣トラブルや警察への通報につながり、飼い主の社会的信用を損なうことになります。
該当する法律や条例
- 動物愛護管理法
飼い主は環境や衛生面に配慮した適正管理を行う義務があります。 - 軽犯罪法
フンの放置は「汚物の放置」として処罰の対象となる可能性があります。 - ふん害防止条例
ほぼ全国の自治体で制定されており、違反すれば過料や指導の対象になります。
犬のトラブル⑤近隣から吠え声の苦情
犬が吠え続け、近隣から苦情が来ているにも関わらず改善しようとしない。
日中も夜間も吠え続ける犬を放置した場合、近隣住民とのトラブルに発展します。周囲にとって大きな騒音被害となり、繰り返し苦情が寄せられれば、行政から指導を受ける可能性もあります。
該当する法律や条例
- 動物愛護管理法
飼い主は周囲に迷惑を及ぼさないよう管理する責務があります。 - 自治体の生活環境保全条例・騒音防止条例
一定の基準を超える騒音として規制される場合があります。
飼い主に求められる責任
「ちょっとなら大丈夫だろう」「今日だけ特別に」といった気持ちで犬の飼い方や管理を緩めてしまうことは、思わぬトラブルの原因になります。犬の行動は予測できない面があり、わずかな油断が他の犬や人への危害、あるいは公共の場での迷惑につながる可能性があります。
動物愛護管理法に基づき、飼い主は犬を適切に飼養する責任があり、日々の小さな積み重ねこそが犬の安全と周囲との共生を守ることにつながります。
まとめ
- 犬のトラブルは単なるマナー違反でなく法律責任が伴う
- 動物愛護管理法は飼い主に適正な飼養管理を義務付けている
- 民法に基づき犬が他犬を傷つければ賠償責任が生じる
- 抜け毛やフン放置は軽犯罪法や各自治体条例に違反する
- 日常の予防と誠意ある対応が愛犬と飼い主を守る鍵となる