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犬にとって寄生虫症は、年齢や生活環境に関わらず発生する可能性がある身近な感染症です。健康な成犬でも感染することがある一方で、免疫力が未成熟な子犬では重症化しやすく、命に関わるケースも見られます。
ここでは、犬の寄生虫症で代表的な9種類について、寄生部位や中間宿主、感染経路、人への感染(人獣共通感染症)の有無について解説します。
寄生虫症に関する用語について
犬の寄生虫症において「どのように感染するのか」「なぜ予防が必要なのか」を理解するうえで、感染経路や中間宿主、人への感染性に関する言葉は欠かせません。寄生虫の性質は種類によって異なり、感染方法も多様です。用語の意味を知ることで、日常生活での注意点がより明確になり、犬と家族の健康管理に役立ちます。
ここでは、寄生虫症の解説でよく登場する用語について説明します。
中間宿主とは
中間宿主とは、寄生虫が成長する過程で一時的に寄生する生物のことで、寄生虫が成虫になる前に必要とする「途中の宿泊場所」のような存在です。中間宿主が必要な寄生虫は、犬がそれらを食べたり、体に付いたノミを飲み込んだりすることで感染が成立します。
犬の寄生虫では、ノミが中間宿主となる瓜実条虫や、カエルやヘビが中間宿主となるマンソン裂頭条虫が代表例です。
人獣共通感染症とは
人獣共通感染症とは、動物から人へ、または人から動物へ感染する病気の総称です。代表的な寄生虫症は回虫症や鞭虫症、鉤虫症、ジアルジア症などです。犬に寄生虫がいると家庭内に虫卵が持ち込まれ、衛生管理が不十分な場合は子どもや高齢者に感染が広がることもあります。
寄生虫症が公衆衛生の問題として扱われる理由はこうした家庭内感染を防ぐためであり、日常的な予防や清潔管理がとても重要になります。
経口感染とは
経口感染とは、寄生虫の卵・幼虫などを口から摂取して感染することを指します。回虫や鞭虫、鉤虫、ジアルジア症、コクシジウム症など多くの寄生虫がこの経路で感染します。
犬が地面を舐めたり、他の動物の便に触れたり、水たまりの水を飲んだりする行動が感染につながるため、散歩時の拾い食い防止や、汚れた場所を歩かせない工夫がとても大切です。
経皮感染とは
経皮感染とは、寄生虫の幼虫が犬の皮膚から直接侵入して感染することで、鉤虫や糞線虫がその代表です。散歩や屋外での遊びによって、知らないうちに感染してしまうことがあります。
皮膚から侵入するため、土壌や汚れた場所や湿った地面など、衛生管理が不十分な場所に犬を連れて行くことは避けるべきです。
胎盤感染とは
胎盤感染とは、妊娠中の母犬が寄生虫に感染している場合、胎盤を通じてお腹の中の子犬に寄生虫が移行する感染経路のことです。とくに回虫や鉤虫でよくみられ、生まれた直後から子犬が大量に寄生していることもあります。
回虫症
| 寄生部位 | 小腸 |
| 感染経路 | 経口感染 胎盤感染 乳汁感染 |
| 中間宿主 | なし |
| 人への感染 (人獣共通感染症) | あり |
回虫症は犬の小腸に寄生する代表的な内部寄生虫で、胎盤や乳汁を介して母犬から移行しやすいためとくに子犬で多くみられる寄生虫症です。
腹部膨満や嘔吐、発育不良などの症状が起こり、成虫が糞便中に混ざって出てくることもあるためそのときに飼い主が気づくことが多くあります。また、大量寄生すると腸閉塞を起こすこともあります。
鞭虫症
| 寄生部位 | 盲腸、結腸 |
| 感染経路 | 経口感染 |
| 中間宿主 | なし |
| 人への感染 (人獣共通感染症) | あり |
鞭虫症は盲腸や結腸に寄生する寄生虫で、犬の腸壁に付着して吸血するため、慢性的な下痢や血便が続くことが特徴です。
成熟卵の経口摂取によって人にも感染することがあります。
鉤虫症(十二指腸虫症)
| 寄生部位 | 小腸 |
| 感染経路 | 経口感染 経皮感染 胎盤感染 |
| 中間宿主 | なし |
| 人への感染 (人獣共通感染症) | あり |
鉤虫症は小腸に寄生して吸血する寄生虫によって起こり、とくに子犬で重症化しやすい感染症です。経皮感染や胎盤感染もあり、急激な貧血、黒色便、衰弱などが起こり、命に関わる場合もあります。子犬がタールのような黒い下痢便をしたときは鉤虫症を疑いましょう。
糞便はできるだけ早く処理し、床や生活スペースを清潔に保つことが重要です。人にも感染する可能性があるため、家庭内の衛生管理にはとくに注意が必要です。
犬糸状虫症(フィラリア症)
| 寄生部位 | 心臓(右心室)、肺動脈 |
| 感染経路 | 媒介感染 |
| 中間宿主 | 蚊 |
| 人への感染 (人獣共通感染症) | まれにあり |
犬糸状虫症(フィラリア症)は蚊が媒介となって心臓(右心室)や肺動脈に寄生し、最悪の場合は命に関わる寄生虫症です。
フィラリアは感染犬の血を吸った蚊の体内で幼虫が成長し、蚊が再び犬を刺すと感染幼虫(ミクロフィラリア)が体内に侵入します。ミクロフィラリアは皮下組織で成長を繰り返し、その後血流に乗って心臓(右心室)や肺動脈へ移動します。到達後、約6か月かけて成虫となり、血流障害や炎症を引き起こします。
フィラリア予防薬の投与によって予防できる病気なので、必ず行うようにしましょう。
糞線虫症
| 寄生部位 | 小腸(糞線虫のメスが寄生) |
| 感染経路 | 経皮感染 経口感染 |
| 中間宿主 | なし |
| 人への感染 (人獣共通感染症) | あり |
糞線虫症は湿った土壌に多い寄生虫で、糞便中に含まれる幼虫による経口感染や、皮膚から直接侵入する経皮感染が特徴です。
衛生管理が不十分なブリーダー施設や、多頭飼育で環境が乱れがちな保護シェルターでは、糞線虫症が見つかることが少なくありません。そのため、新しく迎えた直後の犬の健康チェックや、下痢をして受診した子犬の検便で発見されるケースがよくあります。
また、糞線虫は人にも感染する人獣共通感染症であるため、家庭内で糞線虫症が起きた場合は速やかな駆除と清掃が必要となります。
瓜実条虫症
| 寄生部位 | 小腸 |
| 感染経路 | ノミを経口摂取 |
| 中間宿主 | ノミ |
| 人への感染 (人獣共通感染症) | あり |
瓜実条虫症はノミが中間宿主となる条虫症で、犬がグルーミングの際にノミを飲み込むことで感染します。寄生した条虫は小腸で成長し、肛門付近に米粒状の片節が付着するのが特徴です。症状は軽いことが多いものの、ノミ対策を怠ると繰り返し感染します。
マンソン裂頭条虫症
| 寄生部位 | 小腸 |
| 感染経路 | 経口感染(カエル・ヘビなど中間宿主の捕食) |
| 中間宿主 | カエル、ヘビなど |
| 人への感染 (人獣共通感染症) | なし |
マンソン裂頭条虫症は、カエルやヘビなどの中間宿主を食べることで感染する寄生虫症で、自由行動の多い犬や屋外で暮らす犬に多く見られます。症状は無症状のことが多いものの、嘔吐や下痢、体重減少などが生じることがあります。
マンソン裂頭条虫症の予防は、拾い食いや野生動物との接触を避けることです。散歩で池や田んぼに近づく場合は、カエルやヘビなどを捕食させないように注意しましょう。
コクシジウム症
| 寄生部位 | 小腸の粘膜 |
| 感染経路 | 経口感染(オーシスト摂取) |
| 中間宿主 | なし |
| 人への感染 (人獣共通感染症) | なし |
コクシジウム症は小腸の粘膜に寄生する寄生虫症で、感染の多くは子犬です。コクシジウムが体内にいる犬は、卵のような形をしたオーシストを糞便と一緒に外へ排泄します。環境中に出たこのオーシストを、犬が何らかの拍子に口へ取り込んでしまうことで感染が成立します。
とくに集団飼育の環境で発生しやすく、弱った子犬では重度の脱水や衰弱に進行することがあります。
ジアルジア症
| 寄生部位 | 小腸 |
| 感染経路 | 経口感染(水・環境中のシスト摂取) |
| 中間宿主 | なし |
| 人への感染 (人獣共通感染症) | あり |
ジアルジア症は小腸に寄生する寄生虫症です。とくに子犬でかかりやすく、重篤な下痢を引き起こします。感染している動物の糞便に混ざったシストを犬が口にしてしまうことで広がります。散歩中に汚れた水を飲んだり、汚染された地面を舐めたりすることが感染源となりやすく、不衛生な食品や水も原因になることがあります。
また、人にも感染するため、家庭内での衛生管理がとても重要です。とくに子どもや高齢者は感染しやすいため、排泄物の処理や手洗いを徹底し、飲み水や生活環境を清潔に保つことが予防につながります。
まとめ
- 犬の寄生虫症は種類ごとに寄生部位・感染経路が異なり、予防が重要
- 多くが糞便や環境を介して感染し、衛生管理と拾い食い防止が大切
- ノミや蚊が中間宿主となることが多く、季節や環境に応じた予防が必要
- 子犬や免疫力の弱い犬では重症化しやすい
- 一部は人にも感染するため、家庭内での清潔管理と公衆衛生が重要
















































































































