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犬が散歩中に何度も立ち止まっては足を上げ、少量の尿を残す姿を見て、「なぜこんなにマーキングするの?」と疑問に感じたことはないでしょうか。さらに、家の中で突然マーキングされてしまったときには、飼い主として戸惑いや困惑を覚えるものです。
マーキング行動には明確な理由がありますが、それを正しく理解しないまま叱りつけてしまうと、逆に問題がこじれてしまうこともあります。
この記事では、犬がマーキングをする理由から、散歩中と室内での違い、そしてマーキングをやめさせるための対策までを解説していきます。
犬が散歩中にマーキングをする理由
犬のマーキングとは、ごく少量の尿をさまざまな場所に残して歩く行動のことです。これは排泄目的ではなく「情報の発信」や「自己主張」の意味があります。
下記にその代表的な理由を紹介します。
自分の存在を知らせるため
犬は尿に含まれるフェロモンを通じて、マーキングすることで自分の性別・年齢・健康状態などの情報を他の犬に伝えています。これは犬社会における「名刺交換」のような行動です。
縄張りを主張するため
とくにオス犬の場合は縄張り意識からくる本能的な行動であり、一定の範囲に自分の匂いを残すことで「自分はここを通った」「ここは自分のテリトリーである」と示します。
とくに去勢をしていない若いオス犬は、周囲の犬との存在競争のような気持ちでマーキングに励む傾向があります。
他の犬への対抗心
他の犬の尿の匂いを感じ取ると、その上から自分の匂いを上書きすることで優位性を示そうとすることがあります。これも自己主張の一種であり、「自分の方が上位だ」と社会的な順位を意識した行動です。
不安や緊張の表れ
散歩中に知らない場所や刺激が多い環境に出くわすと、不安を感じた犬が安心感を得るためにマーキングをすることもあります。これは「ここは自分の場所だ」と安心したいという気持ちの現れです。
犬が家の中でマーキングする理由
外でのマーキングが自然な行動である一方で、家の中でのマーキングは飼い主にとって問題行動につながります。とくにトイレのしつけが済んでいるはずの成犬が、突然室内で足を上げてしまった場合、「なぜ今さら?」と混乱するでしょう。
このような室内でのマーキングには、環境の変化や心理的な要因が大きく関わっています。例えば、下記のような状況が引き金になることがあります。
- 新しい家具や来客による「自分のテリトリー」への侵入
- 他の犬やペットとの生活開始によるストレスや対抗意識
- 引っ越しや家族構成の変化による不安
- 飼い主の注意を引きたいという要求行動
つまり、犬にとって安心できるはずの家が「脅かされた」と感じたとき、あるいは「自分の存在を再主張しなければ」と思ったときにマーキングが起こるのです。
これは単なるいたずらや反抗ではなく、不安や緊張、混乱といった犬の感情の表れと言えます。
去勢・避妊手術でマーキングは減る?
マーキング対策としてよく挙げられるのが、去勢や避妊手術です。
これは確かに一定の効果があります。性的なホルモンの影響によって行われていたマーキングであれば、手術によってその動機が抑えられるため、行動の頻度が減る傾向があります。
しかし、すでに習慣化していたり、心理的な不安やストレスが原因になっていた場合は、手術後もマーキングが続くことがあります。去勢・避妊は「万能の解決策」ではなく、あくまで一つの手段と考えましょう。
手術後も行動が続く場合は、その原因を環境面や行動面から見直し、根気強くしつけや習慣づけを行うことが重要です。
散歩中のマーキングをやめさせる方法
散歩は犬主導ではなく、飼い主主導で
散歩中のマーキングを抑えるためには、まず散歩の主導権を犬から飼い主へと戻すことが第一歩です。リードを長く伸ばしたまま歩かせると、犬が好きなタイミングで好きな場所にマーキングしてしまい、習慣化が強まります。適度にリードを短く持ち、テンポよく歩くことで、犬が自然とマーキングに集中しすぎなくなります。
もちろん、すべてのマーキングをやめさせる必要はありません。犬にとってこれは自然な行動であり、強く抑圧するとストレスになることもあります。
しかし、「どこでもさせる」から「ここではやめさせる」へ切り替えることが重要となります。
なぜ電柱にこだわる?犬が選ぶ場所には理由がある
犬が電柱やポール、ベンチの脚といった場所を好んでマーキングをするのは、匂いを残しやすく、他の犬の注目を集めやすい構造物です。
犬は、より高くて風通しの良い場所に尿をかけることで、自分の存在を広く知らせようとします。さらに、すでに他の犬の尿がついている場所には、自分の匂いを上書きして優位性を示すという本能的な欲求が働きます。電柱はまさに「犬たちの情報掲示板」のような存在なのです。
このように、犬はマーキングの場所を本能的かつ戦略的に選んでいます。だからこそ、気になる場所に近づかせすぎない、リードで進行方向を変える、集中しそうなときに声をかけて意識を逸らすなど、飼い主が環境に介入することで行動の抑制が可能になります。
コマンドと「メリハリのある自由」が成功の鍵
マーキングの抑制において重要なのは、「全てを禁止する」のではなく、「していい場所とそうでない場所」を明確にすることです。例えば、いつも同じ公園の一角ではマーキングを許可する代わりに、街中や他人の敷地沿いではコマンドで制止するといった方法が有効です。
このようなメリハリのある制御を繰り返すことで、犬も行動をコントロールされることにストレスを感じず、飼い主の指示に従う習慣が身についていきます。
家の中のマーキングをやめさせる方法
家の中でのマーキングを防止するためには、犬が不安やストレスを感じない環境を整えることが第一です。
徹底的に消臭・洗浄をする
まず、マーキングされた場所は徹底的に消臭・洗浄します。犬は匂いを記憶し、それを頼りに「また同じ場所にする」という行動をとります。人間の感覚では消えたと思っても、犬の鋭い嗅覚では痕跡を感じ取ってしまいます。
ペット用の酵素系クリーナーなどを使って、しっかりとニオイを除去しましょう。
マーキングしやすい場所を制限
室内での自由な移動を一時的に制限するのも効果的です。とくにマーキングをしやすい場所(カーテン、家具の脚、壁の角など)には入らせないよう、ゲートや柵を使って管理しましょう。
ストレスを感じさせない環境作り
犬が安心して落ち着ける「自分だけのスペース」を確保してあげることも大切です。ベッドやクレートを使って安心できる場所を作り、ストレスを感じにくい環境を作ることで、マーキングの行動は減っていきます。
マーキングを叱るべきではない理由
飼い主としては、愛犬が家の中でマーキングしてしまったとき、つい怒ってしまうこともあるかもしれません。しかし、マーキングは「トイレの失敗」とは別の行動であり、感情や本能に基づいた行為です。頭ごなしに叱っても、犬は「なぜ怒られたのか」が理解できず、むしろ恐怖や混乱からマーキングが増えることすらあります。
マーキングが起きたときには、声を荒げるよりも、冷静に対処すること、また生活環境の状況を確認することが大切です。犬の行動には必ず意味があり、その根本を理解しようとする姿勢こそが、問題を解決する最善の方法です。
行動が改善しないときは専門家に相談
いろいろな対策を試してもマーキングが改善しない、あるいは行動がエスカレートしてきたという場合には、獣医師やドッグトレーナーなど専門家に相談しましょう。泌尿器の疾患やホルモンバランスの乱れが関係している可能性もあり、健康面のチェックも含めた対応が必要になることがあります。
また、行動学に精通したプロのトレーナーであれば、飼い主と犬の関係性や環境の分析を通して、より適切な対応方法を提案してくれるはずです。
まとめ
- 犬のマーキングとは、排泄目的ではなく、少量の尿をかけて歩く行動
- 散歩の主導権は飼い主が握り、リードを短めに保つ
- 犬は好んで電柱やポールを選び、マーキングしている
- マーキングさせる場所・させない場所にメリハリをつける
- 行動を叱るのではなく、犬がストレスを感じにくい散歩を目指す