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犬のアルツハイマー病(alzheimer’s disease)とは?
犬にも人と同様に加齢による認知機能の低下がみられることがあります。この状態は一般的に犬のアルツハイマー病または認知機能不全症候群(Canine Cognitive Dysfunction, CCD)とよばれます。
獣医療の発展やペットフードの改良、ワクチンの普及などにより犬の平均寿命は年々も延び、高齢犬におけるアルツハイマー病の問題が注目されるようになりました。
犬においては11~12歳以上の犬の約28%、15~16歳以上の約68%が認知低下の兆候を示したといわれています。
参考:犬の認知機能不全症、どのように対処していますか?|日本獣医生命科学大学
犬のアルツハイマー病の原因
犬のアルツハイマー病の正確な原因は完全には解明されていませんが、さまざまな原因が関与して発症します。
アミロイドβの蓄積
高齢犬の脳には、神経細胞間にアミロイドβとよばれるタンパク質が異常に蓄積します。健康な状態では分解・排出されますが、高齢犬では分解・排出が十分に行われずに蓄積していきます。この蓄積により神経細胞の通信を阻害し、炎症反応や酸化ストレスを誘発し、さらなる脳の損傷を進行させます。
そうなると細胞が機能を失い、最終的に生命活動を停止する細胞死を引き起こします。とくに記憶や学習能力を司る海馬が影響を受けやすくなります。
酸化ストレス
年齢を重ねると代謝が低下し、体内で活性酵素が過剰に発生します。活性酵素が過剰になると脳の神経細胞がダメージを受け、アミロイドβの蓄積や細胞死を促進します。
とくに高齢犬は抗酸化能力が低下しているため酸化ストレスが増加しやすく、大きな負担となってアルツハイマー病の発症リスクが高まります。
血流の低下
老化に伴って脳への血流が減少すると脳細胞に十分な酸素と栄養が供給されなくなり、酸素や栄養の供給が不足して脳機能が低下します。血流不足は心疾患や高血圧などの疾患が原因の場合もあります。
遺伝的要因
人のアルツハイマー病ほど遺伝的要因が強く明確に特定されているわけではありませんが、犬のアルツハイマー病の発症には遺伝的要因が関与している可能性があります。
とくにジャーマンシェパードやラブラドルレトリバー、パグ、チワワなどの特定の犬種は、他の犬種よりも認知機能の低下が起こりやすい傾向があるとされています。遺伝的な脳の老化速度や神経疾患のリスクが関係していると考えられます。
犬のアルツハイマー病の症状
高齢の犬にみられるアルツハイマー病の症状を評価するための指標として、DISHAAアルゴリズムが使用されます。
DISHAAアルゴリズムとは犬の行動変化を整理し、認知症の可能性を評価するためのツールで、認知機能低下の兆候を早期に発見し、症状の進行具合や適切な治療や管理を提案するための重要な参考となります。
D: Disorientation(方向感覚の喪失)
- 自宅内で迷子になる
- 行き慣れた場所を忘れ、混乱する
- 壁や家具の前で動けなくなる
I: Interaction Changes(交流の変化)
- 飼い主や他の犬への興味を失う
- 過剰に依存するか、逆に避けるようになる
- 社会的な行動が減少する
S: Sleep-Wake Cycle Alterations(睡眠と覚醒のリズムの変化)
- 夜間に目覚めて徘徊したり鳴き続ける
- 昼間に過度に眠り、夜間に活動的になる(昼夜逆転)
飼い主さんが犬の行動の変化で獣医師さんに相談することで多いのが、「夜の無駄吠え」です。今までにない行動を示したことで不安に思い、相談するケースが多いといいます。
H: House Soiling(不適切な排泄)
- トイレの場所を忘れる
- 家の中で排泄をしてしまう
アルツハイマー病の症状として顕著にあわられるのが、「トイレの失敗」です。今までできていたのにトイレの失敗が急激に増えた場合は、アルツハイマー病の初期症状かもしれません。
A: Activity Changes(活動の変化)
- 無目的に歩き回る
- 遊びや探索への興味を失う
- 特定の動きを繰り返す
- 食べ過ぎや食べなくなるなどの異常
A:Anxiety(不安)
- 不安感から、過剰な吠えや鳴きが増える
- 視覚や聴覚に対して敏感になり、怖がる
- 飼い主さんから離れたときに不安がる(分離不安)
アルツハイマー病にならないために
アルツハイマー病を完全に防ぐことは難しいですが、これらの対策を実施することで発症リスクを軽減し、進行を遅らせることができます。高齢期のケアを充実させることが、犬の生活の質(QOL)を向上させる鍵となります。
栄養価の高い食材を与える
栄養は脳の健康維持において重要な役割を果たします。毎日のドッグフードに加え、ご家庭で高齢犬のための手作りごはんを取り入れたりサプリメントを活用すると、アルツハイマー病のリスクを下げる効果が期待できます。
栄養素 | 健康効果 |
---|---|
ビタミンE | ・神経細胞膜を保護する脂溶性の抗酸化物質 ・酸化ストレスによる細胞の損傷を防ぎ、認知機能を維持する |
ビタミンC | ・活性酸素を中和する水溶性抗酸化物質 ・ビタミンEとの相乗効果が期待 |
セレン | ・抗酸化酵素の働きを補助 ・脳内の酸化ダメージを軽減する |
DHA (ドコサヘキサエン酸) | ・魚油由来の必須脂肪酸の一つ ・神経伝達を円滑にし、記憶力や学習能力を向上 |
EPA (エイコサペンタエン酸) | ・魚油由来の必須脂肪酸の一つ ・抗炎症作用を持ち、脳内の慢性炎症を抑制 |
中鎖脂肪酸 | ・ココナッツオイルなどに含まれる脂肪酸 ・肝臓で分解され、ケトン体を生成 ・脳の代替エネルギー源となり、認知機能を改善 |
L-カルニチン | エネルギー代謝を促進し、脳内の機能を活性化 |
タウリン | 神経細胞の保護と神経伝達の正常化に関与 |
適度な運動
適度な運動は脳への血流の改善やストレスの軽減に効果があるため、年齢や体調に応じた運動量を確保することが重要です。
高齢になると動きたがらなくなりますが、家の周りを一周するだけでも足腰を鍛えられて血流が良くなるため、無理のない範囲で散歩は続けましょう。
脳に良い刺激を与える
新しいおもちゃや遊びを取り入れて脳を活性化させることでアルツハイマー病の発症リスクを抑えることができます。
また散歩ルートを変える、初めての場所に連れて行く、他の犬や人との交流など、適度な新しい刺激を経験することで脳の活動を促進します。
ライフステージに合わせたドッグフード
犬の年齢や健康状態に合わせたドッグフードを与えてケアを行うことがアルツハイマー病の予防に役立ちます。
子犬期や成犬期ではバランスの取れた食事と適切な運動を行い、体力や筋肉の増強と脳機能の発達を促進します。高齢期に入ったら高齢犬専用のドッグフードや環境調整を行い、認知機能をサポートしましょう。
気になる場合はチェックシートの活用を
さまざまな動物病院やメーカーで、犬がアルツハイマー病なのかを確認するためのチェックシートを公開しています。愛犬にアルツハイマー病の症状がみられたらぜひ確認してみましょう。
まとめ
- 11歳以上はアルツハイマー病の発症リスクが高まる
- アミロイドβの蓄積や酸化ストレス、血流の低下などが発症の原因となる
- ドッグフードに加え、栄養価の高い食事を与えるのがおすすめ