ドッグフードのパーム油。環境問題や人権問題への懸念、持続可能なパーム油生産について

ドッグフードのパーム油。環境問題や人権問題への懸念、持続可能なパーム油生産について

ドッグフードの原材料:パーム油(palm oil

パーム油とはアブラヤシ(オイルパーム)の果実から抽出される植物性油脂です。世界で最も多く生産・輸出されており、食品や化粧品、工業製品、バイオ燃料に幅広い分野で使用されています。ちなみに、似た名前でパーム核油がありますが、パーム核油はアブラヤシの種子から抽出される油です。

パーム油の世界最大の生産国はインドネシアで、全体の約60%を占め、膨大なアブラヤシ農園があります。またインドネシアと同じく十分な日照時間があり高温多湿な気候のマレーシアも高品質のパーム油を生産することで知られています。

ドッグフードの原材料として使用されるのは稀

ドッグフードのパーム油。環境問題や人権問題への懸念、持続可能なパーム油生産について

パーム油は食品業界や日用品業界では世界的に最も使用量の高い油脂類だが、ペットフードにおける使用は稀である。(中略)ドライフードで下痢や軟便が起こらない0.5~2%程度の配合量で他の油脂と併用される場合が多い

引用元:ペットフードで使用される主な脂質源原料(後編)|迫田順哉

さまざまな表記で記載される

パーム油はドッグフードの原材料として使用されるのは稀で、配合されたとしても少量で他の植物性油脂と配合されることが多い傾向にあります。

ドッグフードのパッケージの原材料欄の記載は、パーム油でなく植物油脂植物性油脂と記載されていることがあります。植物性油脂と記載されている場合は具体的な油脂の種類が分からないため、パーム油なのかそうでないのか不明瞭です。心配な場合はメーカーに問い合わせて詳細を確認するのも良いでしょう。

パーム油が原材料のドッグフード、おやつ

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ドッグフードにおけるパーム油の栄養素やメリット

パーム油は下記のような特徴があるため、いくつかのドッグフードやおやつの原材料として使用されています。

  • コストパフォーマンス:生産効率が高くコストが安いため、大量生産が可能
  • 保存性の高さ:酸化しにくく品質を維持できる
  • 嗜好性の向上:風味を豊かにするため、食欲のない犬も嗜好性を高めることができる

またパーム油にはさまざまな栄養が含まれており、犬の健康効果が期待できます。

飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のバランスが良い

パーム油は脂肪酸の構成において、飽和脂肪酸不飽和脂肪酸のバランスが特徴的です。

◆飽和脂肪酸(約50%)

  • パルミチン酸:主成分で約44%を占め、エネルギー源として機能する。
  • ステアリン酸:約4~5%含まれ、比較的中性の脂肪酸とされている。

◆不飽和脂肪酸(約50%)

  • オレイン酸:約39%を占める一価不飽和脂肪酸で、心臓血管の健康維持に効果的。
  • リノール酸:約10%含まれる必須脂肪酸の一つで、皮膚バリアや免疫機能が向上する。

このようにパーム油は飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸がバランスよく含まれているため、飽和脂肪酸を減らすと液体のパーム油不飽和脂肪酸を減らすと個体のパーム油、といった異なるパーム油を作ることできます。それによりさまざまな製品に使用できるほど汎用性が高いといえます。

ビタミンE:抗酸化作用

パーム油にはビタミンE群のトコフェロールトコトリエノールが豊富に含まれています。これらの抗酸化作用により体内の細胞の損傷を防ぎ免疫力を高めることで、神経変性疾患の予防や老化予防、心血管の健康維持に効果があるとされています。

パーム油の生産における環境問題と持続可能性

ドッグフードのパーム油。環境問題や人権問題への懸念、持続可能なパーム油生産について

パーム油の生産において、環境問題や人権問題、野生動物の生息地の消失など深刻な問題が懸念されています。

これらの問題により、持続可能性を重視する消費者や飼い主さんからの支持を得られにくく、倫理的観点から選択を避けられることも少なくないといえるでしょう。

森林破壊と森林火災

パーム油の大量生産において森林破壊や森林火災など深刻な環境問題となっています。

アブラヤシ農園は泥炭地にも広がっており、開発時に大量の二酸化炭素(CO2)が放出されます。泥炭地は炭素を多く含むため、破壊されると環境への負荷が非常に大きくなります。また、森林伐採は温室効果ガスの排出増加につながっています。

このように、パーム油の生産は地球温暖化の一因となっていることが懸念されています。

野生動物の生息地が減少

とくにインドネシアでは年々拡大する農園開発が問題となり、オランウータンやゾウ、トラなどの野生動物の生息地が脅かされています。行き場を失った多くの動物たちがアブラヤシ農園に入って射殺されてしまうということも起きており、絶滅の危機になっている野生動物もいます。

人権問題にも影響がある

パーム油農園の労働者は長時間労働や危険な作業環境にさらされることが多く、防護具なしで農薬や化学肥料を扱うこともあり、健康被害が懸念されています。また雇用契約が不明確なケースが多く、社会保障のない不安定な雇用状況にある労働者も少なくありません。

また子どもが労働力として利用されるケースが報告されています。彼らは学校に通えずに危険な労働環境で働かされることがあり、成長や教育の機会を奪われています。

問題を改善するためのRSPO認証

このような環境問題や人権問題を改善するため、RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil)が設立されました

RSPOは2004年に設立され、持続可能なパーム油のための円卓会議ともよばれます。環境保全と社会的責任を重視した持続可能なパーム油の生産を推進するための国際的な認証制度および組織です。

RSPO認証は、ドッグフードメーカーが環境や社会的責任を重視していることの証明になります。このような製品は消費者にとって安心感を与える要素になるため、ドッグフードを選ぶ際にRSPO認証マークがあるかを確認することがおすすめです。

まとめ

  • パーム油はドッグフードの原材料としては稀
  • 飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸がバランスよく含まれている
  • ビタミンEの抗酸化作用により老化予防、心血管の健康維持に期待できる
  • パーム油生産における環境問題や人権問題が深刻になっている
  • RSPO認証マークがあることで消費者や飼い主さんに安心感を与えることができる

ABOUTこの記事をかいた人

古川菜々

愛玩動物飼養管理士2級、ペットセラピスト、ペット看護士、愛犬飼育スペシャリスト、ドッグフード勉強会ディレクターとして、ドッグフードに関する情報を提供しています。帝京科学大学アニマルサイエンス学科卒業。文章を通してわんちゃんの魅力を発信し、また多くの飼い主さんの悩みや不安を解決することで、飼い主さんとわんちゃんの幸せのお手伝いになれば嬉しいです。