犬の肝臓病
早期発見がしにくく重症化しやすい
肝臓は犬の体内で最も大きい臓器で、栄養素の合成や分解、有害物質の解毒(無毒化)等、多くの働きを担っています。栄養源も蓄積しているので再生能力が高く、細胞も次々と入れ替わります。予備能力も高いので多少のダメージでは痛みや症状が出ません。
このため肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれていますが、それゆえに肝臓疾患は早期発見がしにくく、愛犬も飼い主さんも気付かないうちに重症化になってしまうという側面があります。
犬に多い肝臓病
肝炎(急性・慢性)
肝炎は肝細胞が何らかの原因で炎症を起こし、症状を引き起こす病気です。ウイルスや寄生虫、中毒等が原因の「急性肝炎」と、肝臓への銅蓄積、薬物などによって徐々に肝臓機能が落ちる「慢性肝炎」があります。急性肝炎は炎症を抑えることで回復させることができます。
ドーベルマンやダルメシアンなど肝臓に銅をためやすい犬種は遺伝的に慢性肝炎にかかりやすいとされています。
門脈シャント(門脈-体循環シャント)
門脈シャント(門脈-体循環シャント)とは、肝臓に毒素を運ぶ門脈と静脈の間に血管が形成される病気です。犬の場合は先天性で遺伝が原因によるところが大きく、若齢で発症することが多いです。
犬の体内でつくられたアンモニア(毒素)は、本来であれば門脈を通って肝臓に運ばれ解毒(無毒化)されます。しかし門脈シャントによって静脈との間に血管が形成されると、毒素が静脈から犬の体中に運ばれ、様々な問題を引き起こします。
門脈シャントは治療によって症状を軽減させ回復させることができます。
肝硬変(肝線維症)
肝硬変は、肝細胞の破壊と再生が持続的に繰り返されることで肝臓が繊維化する病気です。繊維化した肝臓組織は固く変形し、その部分は肝機能を果たせなくなります。肝硬変は8歳以上の老齢犬で発症しやすく、一度繊維化してしまった部分は元には戻すことができません。このため肝硬変になったら、進行を遅らせ、残った肝細胞を守るための治療や対症療法が用いられます。
肝臓癌
肝臓がんは高齢期からの発症率が高く、外科手術で腫瘍を摘出するか抗がん剤等を用いて治療します。肝臓がんは肝硬変など再生不可能な状態を除けば、腫瘍を切除し体力の回復をはかれば再生しますが、転移性のがんの場合、他の臓器にも転移している可能性があるので術後も再発の可能性があります。
肝臓病による犬に現れる症状
肝疾患の初期は症状が少なく、食欲がなくなる、元気がないように見えるなどわかりにくい症状から始まります。重症化すると嘔吐や下痢、黄疸、腹水などの症状が見られます。
- 食欲低下
- 元気減退
- 嘔吐・下痢
- 黄疸
- 出血傾向
- 門脈高血圧
- 肝性腹水
- 肝性脳症
肝性腹水
重症化すると肝性腹水が見られます。腹水とはタンパク質を含む水がお腹にたまる疾患で、肝硬変などの肝疾患を患っている腹水の場合、かなり重症化しています。
肝性脳症
肝性脳症は、重度の肝機能低下によって解毒できなかったアンモニア(毒素)がシャント血管から脳へまわり、神経症状を引き起こします。昏睡状態、痙攣、運動障害などに陥ることもあり、急性脳症の場合は処置が遅れると死に至る場合もあります。
肝硬変や慢性肝炎、門脈シャントなどの肝疾患が重症化することで引き起こされることが多いです。
肝臓病の犬の食事で気をつけること
重症の犬には低タンパク質・高炭水化物食
タンパク質は肝臓の再生に必要な栄養素なので軽症の肝臓病の犬にはタンパク質も積極的に摂取させますが、重症の犬の場合は、タンパク質の代謝によって発生したタンパク質を解毒できなくなり高アンモニア血症になる可能性があるので、糖質からのエネルギー補給をメインに低タンパク食を与えます。
愛犬の回復や体調に合わせて負担がないように徐々にタンパク質量を増やした食事を与えて療養します。
食塩を制限しビタミンを補給
また肝臓病の犬の食事では食塩(ナトリウム)量を制限し、不足しがちなビタミンKなどが補給できる食事を与えます。