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スピルリナが犬の健康にどのように役立つのか、ドッグフードの原材料にスピルリナを使用するメリットやデメリットついて詳しく解説します。
ドッグフードの原材料:スピルリナ(spirulina)
スピルリナとは
スピルリナは細菌に分類される藻類の生物で、世界中の淡水および海水に生息しています。約35億年もの歴史を持つ非常に古い生命体で、長さ0.3~0.5mm、幅0.005~0.008mmと非常に小さく、らせん状のバネのような形で濃緑色をしています。
スピルリナは理想的な栄養食品
スピルリナが世界的に広まったのは1964年。ベルギーの植物学者がアフリカでダイエとよばれる栄養価の高い緑色の乾パンを調査したところ、その乾パンはスピルリナから作られていることを発見しました。
その後さまざまな研究を繰り返し、スピルリナには非常に高い栄養価や吸収率、繁殖率があることが分かりました。
そして1967年、アメリカのFDA(食品医薬局)で正式な栄養食品として認められ、量産化や純粋培養が可能となった今、将来的に理想的な栄養食品として注目が集まっています。
このように人間にとってさまざまな健康効果が期待されているスピルリナですが、最近では犬の健康にも良い影響をもたらすとしてドッグフードの原材料に使われることが増えています。
スピルリナの栄養素
下表はスピルリナの100gあたりの栄養素です。
エネルギー | 260~390 | kcal |
タンパク質 | 51.7~80 | g |
脂質 | 6.7~8.3 | g |
ナトリウム | 433.3~650 | mg |
カルシウム | 263.3~495 | mg |
カリウム | 1050~1800 | mg |
鉄 | 61.7~115 | mg |
β-カロテン | 80~200 | mg |
ビタミンB1(チアミン) | 2.2~4.8 | mg |
ビタミンB2(リボフラビン) | 2.2~4.8 | mg |
ビタミンB3(ナイアシン) | 11.7~20.0 | mg |
ビタミンB6(ピリドキシン) | 0.7~1.3 | mg |
ビタミンB7(ビオチン) | 0.02~0.045 | mg |
ビタミンB5(パントテン酸) | 0.8~1.8 | mg |
ビタミンB9(葉酸) | 0.1333~0.3 | mg |
ビタミンB12(コバラミン) | 0.1833~0.4 | mg |
ビタミンE | 6.3~12 | mg |
γ-リノレン酸 | 900~1833.3 | mg |
良質なタンパク質が豊富
スピルリナは藻類でありながら、全体の半分以上がタンパク質で構成されています。なんとタンパク質が豊富とされる肉類や魚類、卵、大豆よりも多い含有量となっています。
下表は100gあたりのタンパク質量です。
スピルリナ | 鶏肉(皮なし/焼き) | アジ(焼き) | 鶏卵(乾燥全卵) | 大豆(全粒/黄大豆) |
---|---|---|---|---|
51.7~80g | 38.8g | 29.7g | 49.1g | 33.8g |
またスピルリナに含まれるタンパク質は非常に良質なタンパク質(アミノ酸)で、体内で合成することができない必須アミノ酸がバランスよく豊富に含まれています。植物性でありながら、犬が消化しやすい動物性に近いタンパク質といえるでしょう。
必須脂肪酸であるγ-リノレンが豊富
スピルリナに含まれている脂質のうち、犬の必須脂肪酸であるγ-リノレン酸が豊富に含まれています。γ-リノレン酸はオメガ6脂肪酸とよばれる不飽和脂肪酸で、主に肉類に含まれています。スピルリナは藻類ですが、タンパク質と同様、動物性食材に豊富な栄養素が含まれています。
γ-リノレン酸は皮膚の健康や被毛のツヤ、炎症の軽減に効果があり、犬アトピー性皮膚炎の治療で使用するステロイド薬を減薬できたといわれています。アトピー性皮膚炎や乾燥肌に悩んでいる犬に対しても効果を発揮します。
β-カロテンが豊富
β-カロテンはニンジンやほうれん草などの緑黄色野菜に豊富に含まれていますが、スピルリナのβ-カロテン含有量はニンジンの約16倍、ほうれん草の約26倍です。
β-カロテンは強い抗酸化作用を持ち、体内の活性酵素の除去や細胞の酸化ストレスから守る作用、視覚機能や免疫系のサポート、皮膚や被毛の健康維持などさまざまな働きを持ちます。そのため、老化防止や病気のリスクを低減する効果が期待されます。
まさにスピルリナは動物性と植物性の両方の特徴を併せ持っているといえます。
一つでは効果が発揮しにくいビタミンB群が豊富
ビタミンB群は一つでは発揮しにくいビタミンで互いにサポートし合ってさまざまな働きをしますが、スピルリナにはビタミンB群がバランスよく豊富に含まれています。とくにビタミンB12(コバラミン)は植物性の食材から摂取するのは難しいといわれています。
スピルリナ独自の成分フィコシアニン
フィコシアニンはスピルリナから抽出される青色の天然色素のことで、スピルリナ独自の成分です。食品添加物として使用される着色料には合成着色料と天然着色料がありますが、フィコシアニンは天然着色料に分類されます。
フィコシアニンは強い抗酸化作用と抗炎症作用、免疫調整作用があり、病気の予防に役立つとされています。
スピルリナはスーパーフードとして大活躍
引用元:Spirulina in Clinical Practice: Evidence-Based Human Applications|NCBI
動物性・植物性両方の特徴を併せ持つスーパーフード
スピルリナは極めて高いpHのアルカリ性湖と、管理された条件下の大きな屋外池でのみ繁殖します。スピルリナの生産に理想的な気候を持つ地域は日本、ギリシャ、インド、米国、スペインなど世界でもわずかといわれています。
スピルリナは動物と植物に分化する前に誕生し、そのまま進化せずに生きてきたため動物性と植物性両方の特徴持ち合わせています。そのため、さまざまな栄養効果を兼ね備えているスーパーフードとして注目が集まっています。
未来食としての活用に期待
世界の人口の増加による食糧難が問題視されている中で、UNIDO(国連工業開発機関)は「スピルリナは将来起こりうる食糧難に向けた未来食」として期待されていることを発表しました。
宇宙飛行士の栄養補助食品
スピルリナの高い栄養価と豊富なタンパク質量から、宇宙開発においてもスピルリナが注目されています。
国際宇宙ステーションでの生活や将来的な火星・月の長期滞在において、宇宙飛行士の作業量や手間を最小限にすること、低コストであること、高い栄養価の食材が求められています。
そこでJAXA(宇宙航空研究開発機構)はバイオベンチャーのちとせグループとともに「食用藻類スピルリナを用いた省資源かつコンパクトなタンパク質生産システムの開発」を行いました。
ちとせグループの微生物や藻類などの微細な生き物を大量培養できる技術を活用し、将来的な長期有人滞在時におけるタンパク質生産システムを実現するといいます。また、このタンパク質供給のシステムは地球上においてもさまざまな分野において活用できるのではないかと期待されています。
参考:効率的なタンパク質生産とCO2処理を目指したスピルリナの担持体培養実証|JAXA
スピルリナが原材料のドッグフード
- マッサンペットフーズ/ウィリアムドッグフード
- エルモ(elmo)/ドッグフード
- フィッシュ4ドッグ/スーペリアアダルト
- AATU/サーモン
スピルリナをドッグフードの原材料に使用するメリット
ドッグフードの原材料にスピルリナを取り入れることで、栄養バランスが向上し、犬の全体的な健康状態の向上が期待できます。スピルリナの特性から、ドッグフードにおいて以下のようなメリットがあります。
バランスの良いタンパク質
スピルリナはさまざまな食材よりも豊富なタンパク質が含まれていることから、筋肉の発達や体の修復に必要なアミノ酸の摂取にも効果的です。成長期の子犬や運動量の多い犬には理想的な成分です。
低脂質
スピルリナは肉類や魚類よりも豊富なタンパク質でありながら脂質は6.7~8.3gと、低脂質です。犬に重要なタンパク質をきちんと摂取しつつ、脂質を抑えられる原材料は他にないといえるでしょう。
アレルギーの緩和
スピルリナに含まれるフィコシアニンの強い抗酸化作用と抗炎症作用により、体内で炎症を引き起こす化学物質(サイトカインやヒスタミンなど)の生成を抑制し、炎症反応を軽減します。このように細胞のダメージを防ぐことで、アレルギー症状である皮膚のかゆみや炎症の軽減にも寄与します。
豊富な栄養を摂取できる
一つの原材料からタンパク質や脂質、ビタミン、ミネラルとさまざまな栄養素を豊富に摂取することができるスピルリナは、ドッグフードの原材料の選択や調達、生産などあらゆる場面において可能性が期待される原材料といえます。
スピルリナをドッグフードの原材料に使用するデメリット
肝毒性があるミクロシスチン
スピルリナの品質管理が不十分であったり、汚染された水源から得られたスピルリナには、肝臓に対して強い毒性を持つミクロシスチンがまれに含まれていることがあります。
ただ、スピルリナ自体は通常、厳しい管理下で栽培されており、クリーンな環境で生産されたものにはミクロシスチンのリスクはほとんどありません。また、ミクロシスチンは紫外線照射によって無毒なミクロシスチンに変わるといわれています。
検査や培養方法によって毒性のないスピルリナを生産することが可能なので、すべてのスピルリナ食品が危険というわけではありません。
参考:アオコ中の毒性物質ミクロシスチンの紫外線による構造変化に関する研究
重金属が含まれている可能性
入手可能な研究結果によると、スピルリナは低用量(成人で1日数グラムまで)では健康リスクはないと考えられる。しかし、個々の過敏症のような稀な有害作用を証明するには入手可能な疫学研究の症例数が少なすぎる。更に、スピルリナを含む食品は、シアノトキシン(主にミクロシスチン)、細菌、又は重金属類(鉛、水銀、ヒ素)によって汚染される可能性がある。
スピルリナの培養・生産は湖などで行われるため、細菌や重金属類(鉛、水銀、ヒ素)が含まれている可能性があります。重金属は体内に蓄積され、嘔吐や下痢などの消化器症状があらわれ、進行すると痙攣などの神経系症状があらわれます。
スピルリナは低用量であれば健康リスクはないと考えられますが、過剰摂取や日常摂取は避けた方が良いという見解が多いです。
まとめ
- 宇宙食や未来食として注目されるスーパーフード
- 動物性と植物性両方の特徴を併せ持つ
- スピルリナの大半は動物性に近いタンパク質
- 少量であれば健康リスクはないが、過剰摂取や日常摂取は避ける
となります。
どんな食材でもそうですが、栄養豊富だからといってたくさん与えれば良いというわけではありません。過剰摂取や日常摂取は避けましょう。